2012/04/30

えっ、東京女学館大学がなくなる?

ついさきほど、東京女学館大学が受験生の減少と定員割れが続いていることを理由に、
来年度から学生の募集を停止し、2016年3月に閉校の方針を発表したという記事をみつけた。

東京女学館、閉校へ 来年度から募集停止
http://www.asahi.com/national/update/0430/TKY201204300224.html

東京女学館といえば、戦前につくられた由緒ある女子校で、附属の小学校から持った
学校である(ちょっと調べてみたところによると、この学校は明治時代中期、新興華族など
名士のお妾さんやそのお妾さんのお嬢様を大手をふるって教育するために、伊藤博文
などが尽力して創った学校なんだとか)。この記事を見て、東京女学館のような伝統校でも、
女子大はどこも経営が厳しいんだなということを実感した次第である。
まさに「女子大厳冬の時代」とでも言おうか。

そういえば、数年前にも、ちょうどやはり東京女学館と似たような女子の伝統校である
山脇学園も短大が閉校になったのを思い出す。

日本では、90年代半ば以降、「一般職OL」という職域の消滅とそれによる女性のライフ
コースの変化、そして少子化によって女子を四年制大学に進学させることのできる
家庭の増加などを背景に、女子の四大志向へのシフトが起こった。こうした動きに乗じて、
女子短大を持っていた学校が、その短大を四年制大学に改組・昇格させたり、他方で、
地方都市に多い、事実上女子の高等教育機関として機能していた公立短大も、県立
大学などに吸収合併されるケースが全国的に相次いだ。後者のケースは、四年制大学に
移行後、その対象をとりわけ女子のみに特化していないということもあってか、四年制
大学に移行後もそれほど大きな問題がなく展開できているものの、私立の女子高等教育
機関で、かつて女子短大だったところが四年制大学に移行した女子大学で、成功している
ケースは実は意外にも少ない。

その一因として考えられる理由については、以前、このブログの「岐路に立たされる
『日本型お嬢様大学』」http://skchura.blogspot.jp/2011/07/blog-post_12.htmlにおいて、
少し関連する内容を取り上げたこともあるので、ここではあえて詳しくは触れないが、
大学受験人口の減少と女子受験生の共学志向といった要因以外にも、ひとことで
いってしまえば、こうした学校は世間でいう所謂「お嬢様学校」とよばれるところなので、
(小)中高はともかく、高等教育機関は、とりわけ日本社会の文脈においては、
短大であってこそその価値を発揮できてきたのだといえるのだろう。

自分が知る範囲内でも、G女子は短大から四年制に移行して、少なくとも入試偏差値が
それほど低下せず、移行前のステイタスをほぼそのまま維持できたという意味において
そこそこ成功した数少ない例といえると思うが、東京女学館をはじめ、TE女学院やK女学園、
関西のO女学院など、四年制大学に移行していまいち振わなくなったケースの方が多い。
ただでさえ女子受験生の間で女子大の人気が低下している今日、山脇学園は、こうした
事例もひとつの教訓として、あえて四年制に移行する道を選ばなかったと聞いているし、
東京女学館の今回の選択も、これ以上、「キズ」が深くなるまえに手を打ったのだと見る
こともできる。

今の日本の大学、そして女子大学を取り巻く現状から考えて、今後、日本の多くの女子大は、
①共学化するか(実際、大阪女子→大阪府立、高知女子→高知県立、広島女子→県立
広島など、かつて全国にいくつかあった公立女子大は、すでにそのほぼ全てが近隣の公立
大学に吸収合併されている)、②今回の東京女学館のように閉校するか、いずれかの選択を
取らざるを得ないことになるものと予測される。しかしながら、これまで理系や実学・資格系の
学部・学科を持ってこなかった文学系・教養系のみの学部学科構成の女子大、またはミッション
系の女子大や世間で「お嬢様学校」とされてきた女子大の多くは、設立当初からもっぱら女子
教育に特化してやってきたという「プライド」から、この②の今回の東京女学館と同じような
選択を取るケースがさらに増えてくることは想像に難くないだろう。

自分の勤務先の大学も中学から大学まで持っているが、大学には、かつての短大が
母体となっている学部もある。また、偏差値的にも、バブル期までは全国的にもそこそこの
レベルにあり、私立女子大としては結構高い位置をキープしていたものの、最近は多くの
女子大と同じように、受験生の減少傾向が出始め、昔のOGには申し訳なくなるほど凋落
傾向が大きい(現に極端な例だと、学生が就活でOGを訪問しようとしても「私たちの頃とは
学生の質が全然違う」として断られるケースも出ているそうなのである)。

にもかかわらず、法人側の理事長は「私どもは絶対に共学化しません。永遠に女子大を
堅持します。今の時代だからこそ、あえて女子大にこだわりたいのです」などと言い張って
いる。実際、10年ちょっと前に、近所の同じ宗派のキリスト教系の学校で、今でこそこの手の
学部学科を持つ女子高等教育機関が急増したものの、当時は全国的にもまだそれほど
多くなく、この分野においてはそれなりの実績を持つ女子の資格・実学系専門の某短大から
合併を打診されたことがあるらしいが、聞くところによると、それを当時のウチの理事長が
断ったらしい。その後、そこは四年制大学に移行して共学化し、この大学受難の時代に
おいて受験生や入試難易度を順調に伸ばし、学生の就職などもなかなか堅調で、ウチと
競合する専攻においてはすっかりその地位が逆転してしまっている。おそらく当時は、
ウチの側からすれば「あそこと合併するだなんてとんでもない」という感覚だったんだろうが、
今じゃ逆に、ウチからお誘いをかけても、かえって向こうの方が断ってくるんだろうな。
先見の明がないというか、結果論だが、今考えれば勿体ないことをしたものだ。昔よかった
時代の認識やプライドをなかなか捨てきれないがために、かえってそれがアダとなって
しまった形である。おそらく伝統校や「お嬢様学校」とされる女子大ほど、こういう過去の
栄光へのこわだりというか、なんだかんだ言ってもそこからなかなか認識の転換ができない
ことが、逆に今の時代に足枷になってしまうのだろう。

それゆえに、今回の東京女学館のニュースは、正直にいって他人事に思えない部分も大きい
のが正直な心境なのである。

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