2011/10/19

非生産的な大学教員採用人事における「カラ公募」

10月も半ばを過ぎ、自分の知人や周辺でも、早いところでは、もう来年の大学教員人事の
決定状況がちらほらと聞こえてくるようになりました。

大学教員の採用は、一般企業などの採用とはかなり異なった側面をもっております。
もちろん、公募によった場合、応募者の中から、さまざまな要素を勘案して第一位になった
者が候補者として選考委員会から人事委員会に推薦され、さらにそこから教授会にかけられて
採用が決定されます(私立大学の場合は、教授会の後、さらに理事会にかけられます)。

実際、選考にあたってどの点にポイントが置かれるかは、大学ごとでの一律な基準などは
もちろんなく、また、同じ大学内でもポストによってかなりケースバイケースです。さらに、
当該人事において採用の決定権を持っている人物の主観や判断基準によってもかなり左右
されやすいのは、むしろ一般企業などの採用人事以上かもしれません。

大学教員人事は、かつては学会など業界のルートや、当該大学の教員の人脈を通して採用が
行われることが一般的だったのですが、現在は文科省の指導によって、大学教員人事は
基本的に公募によらなければならないとされており、最近は、「JREC-IN」という、それ専用の
サイトまでもできております。また、昨今は、大学基準協会による大学評価との絡みでも、
公募で採用する方針を採らないといけないような動きになってきております(そうでないと、
大学評価の際に、「勧告」対象になりかねません)。

このように、現在では、応募している大学の情報がインターネットを通じて行われることが多く
なりましたし、募集先の大学も自分の大学のホームページに載せることが一般的になりました
ので、全国のどこの大学でどのような公募が出ているのかの情報は、以前に比べればかなり
容易に把握できるようになりました。

しかしながら、厄介で、かつ広く問題となっているのは、どこからどこまでが「本当の」公募なのか
募集情報だけではなかなか判断がしにくいこと(ただし、条件がやたら細かい、募集している
専門分野があらかじめけっこう限定されている、応募書類に推薦状を要求してくる、書類選考の
段階から健康診断書の提出を求めている、募集期間が短いなどといった場合は、「カラ公募」の
可能性大です)。実際、すでにターゲットとしている候補者が存在するにもかかわらず、最近は、
文科省から「公募によって採用せよ」と行政指導が入っていることもあり、見掛け上の公募、
つまり「カラ公募」が後を絶ちません。実際、私の経験も含めて判断すると、公募している教員
ポストの多くは、多少の程度の差はあっても、この「カラ公募」に該当するといっても過言では
ないと思います。

「カラ公募」するくらいなら、最初から「ウチは、こうこうこういう人が欲しいから、この人を採用
する」と公言し、「一本釣り」した方がはるかに分かりやすく公平だと思うのは何も私だけでは
ないでしょう。

「カラ公募」ほど、応募側と採用側の双方にとって非効率なものはありません。

なぜなら、応募者は面倒な応募書類を手間暇かけて作成して郵送します。ですので、
履歴書の写真代はもとより、論文のコピー代、郵送費用などもけっこうバカになりません
(何しろ、大学教員への応募書類ほど、応募先に合わせて書類を作成しなければならない
ものはありませんので)。

一方、採用側は、すでに候補者がいたとしても、一応、形式的なものにせよ選考委員会なる
ものを組織して、決して少なくない時間を人事に注ぐことになります。そのためには何度か
会議も開かなければなりませんので、本来なら教育や研究に注ぐべきはずの時間を削いで、
結果的に教員採用人事にあれこれ手間暇をかけることになります。おそらくこんな現状も、
昨今の大学教員が学内行政や雑務によけいに忙殺される一つの大きな要因になっている
といえます。

それに、仮にもともとターゲットとなっていた候補者が「カラ公募」によって採用されたとしても、
長期的に見ればその人のためにもならないように思います。大学教員をしていると分かる
のですが、選考委員会やその周辺のメンバーの中には、「カラ公募」をよく思っていない人も
少なからずおります。ですので、採用されてからも、どこかでそのことが話題に上ることも
少なくありませんし、最初からその人が色眼鏡で見られる場合もあります。

大学教員採用人事が公募によって行われること自体は決して悪いことではありませんし、
私は、むしろそうした傾向はもちろん望ましいと思います。ですが、実際は、「形だけの公募」
「名ばかり公募」では意味がありません。各大学が、無駄な「カラ公募」をしないようにする
ことはもちろんですが、文科省にも今度はそうした「形だけの公募」「名ばかり公募」を
何とかして排除する手立てやチェック機能の考案をお願いしたいものだと思います。