2011/06/19

日本の女性は「相対的貧困」に陥るリスクが高い

最近、私の担当している学部2年生が多い授業で、「相対的貧困」について取り上げました。

ご存知の方も多いとは思いますが、「貧困」の定義には大きく二種類あります。

まず、ひとつは「絶対的貧困」。
これは、たとえば飢餓や餓死寸前にあるアフリカやアジアの途上国の人々の様子を想定
すればお分かりいただけるように、生命の危機に瀕している状態の貧困のことを指します。
一般的に「貧困」といった場合、とりわけ日本では、多くの人々の頭の中に浮かんでくる
「貧困」のイメージはこの「絶対的貧困」です。

これに対して、もうひとつは「相対的貧困」。
「相対的貧困」とは、一般的に、その国の国民であれば、普通この程度の生活レベルは
享受できるだろうと多くの人々に認識されているレベルの生活水準を享受できない人々、
つまり、所得水準でいえば、その国の平均所得の半分以下の所得水準にある人々の
ことを指します。現在の日本国民の年間平均所得が445万程度といわれておりますので、
日本では、だいたい年収200万程度以下の所得しかない人々がこの「相対的貧困」に
該当します。

今日の日本では、いまさら強調するまでもなく、格差、格差といたるところで話題に上り、
そして問題視されております。もちろん最近は、失業や収入低下により健康保険を支払う
ことができなくて保険証を取り上げられ、病院にかかることができなくて、症状を悪化させて
亡くなったりするケースなども増えておりますので、こういうケースは「絶対的貧困」に該当
してくるのでしょうが、今日の日本で「格差」あるいは「格差社会」といった場合に問題に
されている格差とは、主にこの「相対的貧困」のことを指しています。

そこで私は、最近、自分の担当している授業で、学生に「あなたは自分のことを『貧困』だと
思うか?」と尋ねてみました。そうしたところ、何とほとんどの学生の反応はNo。。。

ちょっとこれには驚いたので、「相対的貧困」の概念を繰り返し説明し、今はとくに非正規
雇用が増えていて、①とくに女性の場合、日本では「働く女性」の2人に1人(つまり50%
以上)は非正規雇用であること、②たとえ正規雇用であっても、昔のようにそれで安泰という
時代ではなく、正規雇用から外れてしまうリスクが非常に高くなっていること(しかも日本の
場合、一度非正規雇用になってしまえば、正規雇用に戻ることは非常に困難)、③単身
高齢者の「相対的貧困」層が年々増加し、しかも日本では高齢者の性比では女性の方が
高いため、女性ほどそのリスクが高いこと、などを繰り返し説明しました。
でも、どうもみんなあまりピンと来ない様子。

無理もありませんよね。だって、バイトくらいはしていても、まだ就職して社会人になる前の
学生たちだし、ましてや子育てを行っているわけではないですから。それに、ウチの学生は、
地方の保守的な親のもとで大切に育てられた(お嬢様というよりは)箱入り娘が多いので、
感覚的にどうもいまいち、あまりこういう問題を自分に身近な問題として認識しきれない
のかもしれません。

まあ、今はそれでも致し方ないのかもしれませんが、でも、この「相対的貧困」の問題は、
3年生になって就職活動をする頃になると、すごく切実な問題として感じられてきますよと
私は強調したいです。

なぜかって、女子一般職の就職はどんどん厳しくなってきていますからね。ウチの大学は、
伝統があり、地域ではそれなりに名門とされる大学なので、これまで、地元老舗企業や
大手企業の支店の一般職などに多くの「指定席」を持っていたのですが、ここ数年の学部
4年生の就職状況をみても、それが急激に少なくなってきています。

それだけに限らず、とくに女性が多い秘書職や事務職などは、今は多くが非正規雇用に
切り替わっていますし、仮に正規雇用であっても、これらの職種は生涯にわたって経済的に
自立していけるほどの待遇ではないケースがほとんどです。「家族」だっていつまでも
健在ではないのですから、親にパラサイトできなくなったときどうするのかなと。
そのときは結婚すればいいやと思う女子学生も少なくないのでしょうが、今はその相手すら、
昔ほど年功序列・終身雇用でがっちりと守られているわけではないのですから、
いざとなったとき、自分で経済的に自立していけるだけの職についていなければ、
すぐに「相対的貧困」層に転落してしまうのですよ。(家族社会学者で、パラサイト
シングルという言葉の生みの親である中央大学の山田昌弘先生などが「女性にとって、
今や専業主婦という選択ほどリスクの高いものはない」とあちこちで声高にいって
いるのは、まさにこのことと同じ趣旨なのです。)

それに今、日本の企業は、事業のグローバル展開や日本の大学生の質の低下もあって、
本来、新卒に割り当てられていた採用枠の一部を外国人留学生にシフトさせています。
一般的にいって、日本で大学を卒業するような外国人留学生の多くは、母国語のほかに
日本語、英語ができるだけでなく、たくましくてアグレッシヴですから、こんな地方の
女子大で周りがお膳立てしてくれるような環境でのほほんと温室で育った学生たちが、
こうした外国人留学生たちと同じ土俵に立ったらどうなるだろうかということは、もはや
説明するまでもなく目に見えていることでしょう。

つまり、今の女子学生の多くは、「相対的貧困」に陥るリスクが非常に高いのです。
それなのに、今の女子学生はあまりにも本人にその自覚というか危機感がなさすぎると
感じるのは私だけでしょうか?

そういうわけで、ウチの学生だけに限らず、今の日本の女子学生には、「貧困」という問題を
けっして自分たちと対極にある問題なのではなく、自分たちの身にいつ降りかかってくるか
わからない切実な問題として、この問題に向き合っていってほしいと思っています。

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